かんとこうブログ
2020.02.19
サーモクロミック高日射反射率塗料
夏涼しく、冬暖かい家・・・こんな家があれば日本の気候にあった理想の家だと思いますが、その理想の家を塗料で実現できないかという夢のような話が今日の内容です。この話、もちろん今のところは夢に過ぎません。でもまんざらただの妄想とも言い切れないところがあるのです。
昨日紅梅の色素であるアントシアニンが「クロミック」材料であることを書きました。そして、それらのうちの「サーモクロミズム」という現象は、温度が引き金となって起きるのだとも書きました。今日はその続きからです。
温度によって色が変わる? これも皆さんは、すでに目にしたことがあるのではないでしょうか?色が変わることで温度を示す温度計を見たことはないでしょうか?ほかにも温度をモニターするためのテープ、効果的意匠を狙ったインクなどがあり、液晶、ロイコ染料、溶融性顔料などが使用されているようです。これらの材料では、耐久性その他の問題があり、塗料として使用するのは少し難しそうに思えます。
世の中には「示温塗料」というものがあります。物体の表面温度の測定や監視に用いられるもので、不可逆性と可逆性の2種類があり、可逆性では、ヨウ化水銀酸塩などが使用されているようです。温度センサーが発達した今では出番が少なくなっているそうですが、この「示温塗料」を温度の測定や監視のためではなく、住環境の改善のために役立てることはできないものでしょうか?
「高日射反射率塗料」というものがあります。昔は「遮熱塗料」とも呼ばれていましたが、今ではこの塗料のもつ機能を正しく表すために、「高日射反射率塗料」と呼ばれます。これは太陽光を高率で反射することにより屋根材の温度上昇を防ぎ、建屋内部へ侵入する熱量を低減することで、夏の住居内環境を改善できるという機能を持った塗料で、かなり広く知られています。ただ、この塗料には弱点があります。それは、冬季のエネルギーロスです。
北日本をはじめ日本のかなりの地域において、年間の空調に使用するエネルギー量をみると冬季の方が夏季よりも多くなっています。太陽光のエネルギーが建屋内に入りにくいということは、冬季の暖房に要するエネルギーが増加し、通年で空調エネルギーが増加することになりかねないのです。私は、実はこれが「高日射反射率塗料」の普及を妨げている最大要因ではないかと思っています。
もし仮に、20~30℃を境に色が明彩色から濃彩色に可逆的に変化する(低温側で濃彩色、高温側で明彩色)ような塗料があれば、それは理想的な「高日射反射率塗料」となるに違いありません。
実は、この「サーモクロミック高日射反射率塗料」もうすでに外国では研究例が報告されています。その内容は文献として入手可能ですが、使用したサーモクロミック顔料の詳細情報がないものの、分光反射率も暴露試験における表面温度も詳しく掲載されています。著作権関係で文献そのものをここに載せることはできませんが、興味のある方は一読をおすすめします。(文献の詳細は以下です。 ”Development and testing of thermo chromic coatings for buildings and urbane structure" T.Karlessi et al. , Solar Energy 83 (2009) 538-551)
耐久性の観点からはまだ実用化には遠いのでしょうが、すでに10年前にこのようなことを考えていた人がいたことは驚きでした。なんとかこの「サーモクロミック高日射反射率塗料」が日本で開発されることを願ってやみません。