かんとこうブログ
2020.06.11
セザンヌのパレット その2
昨日の続きです。セザンヌのパレットをなんとか自分で再現してみようと決意したところまで書きました。しかし、そこから先が続きません。結局再現しようにも有効な資料が見つからず、困って中畑さんに相談しました。さすがに中畑さん、いろいろと調べて恰好の資料を紹介してくれました。
ということで、パレットの説明はまた後回しで、この資料の説明を先にします。
「An Investigation of the Materials and Technique Used by Paul Cézanne」(直訳すると「ポール・セザンヌによって使用された画材と技法の研究」)というこの資料ですが、実は美術書でもなんでもなく学術的な文献でした。フィラデルフィア美術館の学芸研究員の方が書かれたりっぱな論文でした。
https://www.mccrone.com/wp-content/uploads/2015/06/Materials-and-Techniques-Cezanne.pdf
で文献の内容はというと、フィラデルフィア美術館が所蔵しているセザンヌの絵画のうち10点について、定期的な補修のために詳細に画材を分析した結果についてまとめ、製作年代と使用画材と関係を考察したものです。ですから絵の解説はなく、絵の具の解説になっています。分析対象となった絵の一部と一覧表を示します。分析された作品は約30年間と幅広い年代にわたって制作されたものです。
分析方法は、それぞれの絵画から12-15色を選び表面から25 micrometer(μm)の微小片を採取し、分散したのち偏光顕微鏡にかけて同定したと書かれています。
分析により同定された絵の具の顔料の使用傾向については以下のように解説されています。
「最も多くしかも主要な部分に使用されているのは、鉛白、バーミリオン、エメラルド・グリーンおよびウルトラマリンである。また、赤レーキ、黄色酸化鉄、ヴィリジャン、カーボンブラックもほとんどの絵画で使用されているが、使用部位がさほど大きくはない。黄鉛は特定の作品において、黄色の主要顔料となっているが、晩年ではほとんど使用されていない。コバルトブルーは、最も遅い時期の5作品のみに使用されており、かつ「サント・ヴィクトール山」の2作品では、青顔料はコバルトブルーのみが使用されていた。」
この最後の部分は、興味を惹かれます。最も製作の遅い年代の作品にのみ使用されている・・これこそ、新しく登場し入手できるようになった顔料であることを示しているのではないでしょうか?
以降、解説ではそれぞれの顔料がどの作品のどの部分に使用されているかなどという説明が続きますが、長くなるので省略します。興味のある方は、原文をお読みください。
実はこの文献まだ続きがあり、セザンヌの使用した絵の具についての過去の分析結果のレビューもしており、自分たちが分析して同定した結果との対比も行っています。過去の分析結果もあわせれば、さらに完全な形でセザンヌのパレットが再現できるのではないかという中畑さんの提案で、「セザンヌのパレット」の再現方針が決まりました。その結果作り上げたのが昨日お見せしたパレットの写真です。結局、絵の具の選定も、パレットの写真撮影も中畑さんにすべてお願いしてしまいました。最終的に選定した「セザンヌのパレット」を彩る絵の具の写真と一覧表を下に示します。絵の具の名前は基本的には色の名前になっています。
今日の分も説明が随分長くなってしまいました。またかと言われそうですが、パレットの中身の説明は明日にさせていただき、今日は白キャンバスの上に絵の具をうすく伸ばした色の写真をご覧ください。昨日のパレットの写真よりも色がわかりやすいかもしれません。