かんとこうブログ
2020.06.12
セザンヌのパレット その3
お待たせしました。今度こそパレットに載せられた絵の具の説明をいたします。まずは、絵の具の写真を眺めながら、下の説明をお読みください。
① ホワイト レド(鉛白)一般に炭酸鉛70%、水酸化鉛30%の割合で含有する。古く古代ギリシャ、中世での製法は金属鉛と酢酸を作用させて作られた。なぜ酢酸なのかは、硫酸も硝酸もなかった時代に手軽に使用できた酸が酢酸だったということではないでしょうか?(フェルメールのワインの酒袋の話を思い出してもらえれば幸いです)光と影の画家と呼ばれたエルグレコの絵画で、多くの作品に見るグレーみや青みはすべて鉛白との混色によって表現されている。ルーベンスやフェルメール、モネなど多くの画家に重用された。
② マダー・レーキ アカネソウ(Rubia Tinctrorium)の根から抽出される染料を不溶化したもの。レーキ顔料とは、⽔溶性の染料を沈殿剤で沈殿させ⽔や油などに溶けないようにした有機顔料。アリザリン系染料やアゾ系染料が多く⽤いられ,沈殿剤には, 酸性染料の場合は塩化バリウム,硫酸アルミニウムなどを,塩基性染料にはタンニンなどを使う。* レーキ化する金属種で色が変わる。マダーレッドは古代ローマやビザンチンの時代から用いられてきた。マダー・レーキという場合はアルミニウムレーキを指す。*ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
③ カーマイン・レーキ この色はレコンキスタ運動の際に指導的役割を果たしたカステーリャ王国の紋章に由来しており、人々の血の色を象徴しているとされる。新大陸の発見により入手が可能となった染料で、ウチワサボテンの葉肉に寄生するカイガラムシから抽出する。これを不溶化したのがカーマイン・レーキとなる。さすがにオリジナル組成の絵の具は手に入らず、今回は現代顔料(アントラキノンレッドとDPPレッド)による調色品を使用した。
④ バーミリオン 鉱物である辰砂(読み方は「しんしゃ」。硫化水銀、英名シナバー、鉱物は透明な赤)を微粉砕して顔料化したもの。別名マティス・レッドと呼ばれるほどマティスに重用され、絵だけでなく、マティスが晩年手掛けた切り紙にも使用された。このほかゴッホやゴーギャンの絵画にも使用されている。
⑤ 弁柄(酸化鉄)天然無機顔料(天然土性、または、その風化したもの)または、イエロー・オーカーを加熱し、水分を蒸発させて作る。
⑥ ロー・シエンナ このローは生(焼成していない)という意味。原料となる土がイタリア・ルネサンスの中心地、トスカーナ地方の都市シエーナ (Siena) に産出したことに由来してこの名前が付けられた。ロートレックの絵画では、主に背景やアクセントカラーなどに使用されている。これを焼成するとバーント・シエンナになる。
⑦ ブリリアントイエロー 主成分は、アンチモン酸鉛で次のネイプルス・イエローと同じだが、少し色合いが異なる。
⑧ ネイプルス・イエロー ネイプルスは英語のナポリであり、この顔料がベスビオス火山で得られたためこの名がついたとされる。色としては古くから使われてきた。ドラクロアがジャンヌダルクを描いたとされる「民衆を導く自由の女神」の黄色いドレスに使用された。
⑨ クロム・イエロー 1797年ヴォークランにより開発された。アール・ヌーボーを代表する色と言われ、ゴッホのひまわりに使用された。絵の具の名前はクロム・イエローであるが、顔料の名前は「黄鉛」である。
⑩ インディアン・イエロー インドのベンガル地方で、牛にマンゴーの葉だけを与えて排出させた尿を精製して製造したが、動物虐待との非難を受け、20世紀初めに生産中止となった。現代の絵の具では同色名のものが人工的に化学合成されたヒドラジン系(アゾ系)で作られているようである。
⑪ オーカー(黄色酸化鉄)もともとは、鉄の酸化物や水酸化物を含む、黄色を帯びた土を意味する。ヨーロッパの多くの土地で出土した天然無機顔料(天然土性、または、その風化したもの)であった。産地、アルミナ含有量により色調が異なる。オーカーはギリシャ語の黄色を示す「Ochros」に由来。日本でも、阿蘇地方で阿蘇黄土として産出されているものが有名。
⑫ エメラルド・グリーン ルネッサンス期に多用された。ドラクロア、スーラ、ロートレックなどが使用した。タイ人にとってエメラルドは不滅や厄除け、再生を象徴する貴石であり、タイ人はこの色に畏敬の念を持っているとされる。
⑬ ヴィリジャン 1859年にフランスのギネーによって作られた。組成には水が含まれており、加熱すると酸化クロムになる。* ヴィリジャンはラテン語で緑の成長を意味する。** ゴッホ、ゴーギャン、マティスらに使用された。*日本大百科全書 **色名がわかる辞典
⑭ グリーンアース(緑土)古代から使用されている顔料。テールベルトとも呼ばれる。テンペラなどの水性技法で使用すると明るい色になる。産地により色合いが異なる。
⑮ ウルトラマリン もともとは貴石のラピスラズリを原料とする青顔料でアフガニスタンから運ばれたため、この名がついた。フェルメール・ブルーとも呼ばれる。
⑯ コバルトブルー フランスのテナール(1777~1857年)が初めてこの色の合成に成功し、19世紀なかばから生産された。そのためテナールブルーとも呼ばれる。* 別名モネブルーとも呼ばれる。ジョルジュ・スーラやゴッホらも使用した。 *色名がわかる辞典
⑰ プルシアン・ブルー プロシアのブルーを意味し、1704年にベルリンの染色業者によってウルトラマリンの代用品として偶然発見された。*このため、ベルリンブルーの名もある。中身はフェロシアン化鉄Ⅲ 江戸時代には日本に輸入されて浮世絵の彩色にも使用された。現代での顔料名は「紺青」。*世界大百科事典
⑱ コバルト・バイオレット コバルト・バイオレットには、リン酸コバルト主体の濃口(こいくち)とヒ酸コバルト主体の淡口(うすくち)があり*、この絵の具は淡口である。モネは「大気はさわやかな紫色をしている」として、黄色い光の影にこの色を用いた。 *日本大百科全書
⑲ カーボンブラック 原料の油を不完全燃焼させて得られる煤状の粒子。この製法のカーボンブラックはランプブラックと呼ばれる。粒子が大きく、青みの黒が得られる。
⑳ アイボリー・ブラック(骨炭) フェルメール、モネ、ロートレックらが好んで使用した。やや赤みのある黒。元来は象牙や象牙屑を,密閉した炉で蒸焼きにしてつくったためにこの名がある。
https://kotobank.jp/word/アイボリー・ブラック-23876
https://www.holbein.co.jp/blog/art/a189
http://namakemono.art.coocan.jp/material/pigments.html
いかがでしたでしょうか? さて今日ももう充分に説明が長くなってしまいました。もう少しだけ説明したいことがありますので、明日もう一日だけお付き合いください。