かんとこうブログ
2020.11.13
(少し大げさですが)ウールの科学
このところ朝晩めっきり気温が低くなり、暖かいものをありがたいと思う季節になりました。暖かいものと言えば思い浮かぶのがウールです。今日は「ウールを着るとなぜ暖かいのか」をできるだけ科学的に説明しようと思います。
まずウールとは何を指すのでしょうか?ウールとは下表に示すように、狭義には羊毛、広義にはその他の動物の毛を含む獣毛からなる繊維を指します。
それではウールを着ると暖かいのはなぜか考えるために、その構造を見ていくことにしましょう。
ウールの内部には、ミクロフィブリル(非常に細かい繊維状物の意味)というらせん状の分子鎖がぎっしりと詰まっており、隣の分子鎖とシステイン結合で強くつながるため、繊維全体に縮れをもたらしています。この縮れこそがウールの暖かさの秘密の1番目です。この縮れのおかげで、ウールは60%もの空気を抱き込むことができ、優れた断熱効果を発揮します。よく知られているように空気は最も優れた断熱材料であり、断熱材はいかにその材料の中に多くの空気を抱え込めるかで性能が決まっています。ウールは第一に優秀な断熱材なのです。
一方で、表皮を覆うスケールは疎水性(水となじまない性質)で水を通しませんが、湿気(水蒸気)はスケールとスケールの間から出入りできます。内部にある先ほどのミクロフィブリルは、親水性(水になじみやすい性質)であり入り込んできた水蒸気を水として保持することができます。これが第2の秘密です。水蒸気が水になるときには、大きな熱量を放出します。ウールは繊維の中で最も多く水分を保持することができますので、水蒸気を水としてためることで熱量を放出します。ウールは、第二には優れた吸湿(発熱)材なのです。
それに加えて、ウールは放湿性が高いのです。一見吸湿性が高いことと矛盾するようですが、ウールは吸水が進むとスケールが開き、一定以上の水分を放出するようになります。内部の水分量は過度には多くならないのです。さらに、難燃性も高く、極めて優れた衣服素材としての性質を兼ね備えているのです。
以上がウールを着るとなぜ暖かいのかについての大まか説明です。できるだけ科学的にと思いましたが、データ的に不足かもしれないとの自戒をこめてタイトルをつけさせてもらいました。
書き忘れましたが、ウールを着て首がチクチクするというのは、30ミクロン以上の太い繊維が一定以上混ざっている場合が多いとのことでした。ウールの繊維は細いほどしなやかで着心地がよいそうです。最後に羊毛(羊)の種類とその特徴についての一覧表を示して終わりとします。夢のまた夢ですが、ウールの構造をヒントに断熱性と吸湿性を両立するような塗料ができればなどと妄想しつつ。
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