かんとこうブログ
2021.10.13
総雇用者所得の推移について
岸田内閣においては成長と分配というキーワードが聞かれるようになりました。分配と言えば労働分配率が思い浮かびますが、それと並んで総雇用者所得も重要であるとのコメントもありました。今日はこの総雇用者所得について、この10年ほどの推移を眺めてみたいと思います。データの引用元は、今年の9月に発表された内閣府経済財政分析担当による「年次経済財政報告について(経済財政政策担当大臣報告)」です。
https://www5.cao.go.jp/keizai3/2021/0924wp-keizai/setsumei01.pdf
総雇用者所得に関わるところでは、各国のGDPの推移、および一人あたりGDPの推移の図から始まります。
この2つの図については、「2000年以降の主要国の実質GDPの推移をみると、我が国の成長は相対的に低いが、一人当たりでは差が縮小。人口減少による影響が大きい」と説明されています。つまり、国全体としては、英米独仏に比べてGDP成長率は低いが、ひとりあたりになるとその差は縮まるので、日本のGDP成長率が低いのは人口減少によるところが大きいのである」と言っています。GDPは今日の主題ではないので、ここでは突っ込みませんが、一人あたりにしても差があることについてどう考えているのか聞きたくなります。
このあとの第16図に総雇用所得の分解という図が登場します。
正直なかなかよくできた図だと思います。単に推移を表すだけでなく、増減の原因となった内訳も同時に表してくれているからです。折れ線で表された「実質総雇用者所得」は2005年以降ほぼ一貫してプラス側にあります。
この図のコメントは、「実質総雇用者所得は、2013年前後を転機として、雇用者数と現金給与総額により増加」とあるのですが、これは全く理解不能です。雇用者数は一貫してプラスです、現金給与総額は一貫してマイナスにあります。転機というのであれば、むしろ2014年の第1四半期と第2四半期の間にある断層のようなものが気になります。
実質総雇用者所得は確かに2015年あたりから明確に上昇を始めました。ただそれは主として雇用者数の増加によるものであると思われます。現金給与総額の詳細については以下のグラフがでてきます。
現金給与総額は、一貫してマイナスでしたが、その理由は労働時間と構成比の変化によります。時給は2013年以降上がり続けています。この図に対する説明は、「現金給与総額(一人当たり名目所得)は、労働時間の減少と雇用者構成比の変化が押下げ要因。すなわち、高齢化(団塊世代の退職)に伴う男性現役層の減少とともに、一般的に男性現役層に比べて平均賃金が低く、労働時間の短い、非正規の女性や高齢者の労働参加率の高まりが背景。もっとも、2013年以降は、これを打ち消す形で、生産性上昇を背景とした時給賃金が上昇」となっています。ただし、これもこのグラフから理解できるのは、労働時間が一貫して減少方向にあるため、団塊の世代の退職により大量に新規雇用が必要となったが、実際に雇用されたのは非正規や女性や高齢者が多かったのであろうということぐらいです。生産性向上により時給賃金が上昇というのは全く読みとれません。
最後に2020年~2021年上期までの業種別の一人当たりの労働時間の推移が載っていました。極端な業種がピックアップされていますが、宿泊、飲食、娯楽関連は大変なことになっていたことが良く理解できました。
以上、よく理解できなかったままに日本の総雇用者所得ついてまとめると、「日本の総雇用者所得は2005年以来一貫してプラスであったが、現金給与額についてはほぼ一貫してマイナスであった。それを補ったのが雇用者数の増加と時給の増加であり、労働時間数は減少した。」ということになるように思います。しかし、それって結局、以前にくらべると多い人数で仕事をシェアするようになって、労働時間も減りました。でも人数の増え方が多かったのでわずかに全体の所得が増えたということではないのでしょうか?