お電話でのお問合せはこちら
TEL:03-3443-4011

かんとこうブログ

2022.01.19

岸田総理の「新しい資本主義」とは

文芸春秋20222月号に岸田総理の緊急寄稿「私が目指す「新しい資本主義」のグランドデザイン」が掲載されています。代々新しく総理に就任すると新政権の長として自分の政策についての考え方を広く流布するために寄稿するケースが多いので、特に驚くべきことではありませんが、この内容について他のマスコミが取り上げることも少ないと思われますので、今日はこの概要をご紹介したいと思います。

私にとって興味深かったのは、自分の考えの根拠となるべき統計数値をところどころに載せている点です。歴代の総理の中でもこうした統計数値の紹介はとりわけ多いように思いましたので、柱となる考え方とそれに関係する統計数値という形で内容を1枚にまとめてみました。それぞれの項目について、引用されている統計資料を中心にコメントします。

左側の3つの見出しは、「市場に任せすぎたことで、中間層の雇用が減少し、格差や貧困が拡大した。労働分配係数(国民総総所得に対する雇用者報酬、賃金支払い総額の割合)が減少傾向にあるなか、日本企業の人材育成費について欧米に比べ見劣りする水準である」と指摘し、「ヒトを重視した資本主義のバージョンアップを行うべきである」と述べています。ただなぜ日本企業の人材育成費が少ない(あるいは少なくなった)のかは言及されておらず、従来日本には「協同・絆」を重んじる文化と伝統があったと述べるに留めています。

真ん中の列の3つの見出しと内容を要約すると、「欧米に比べ日本の企業は新製品や新サービスに挑戦する会社の割合が欧米よりも低く、研究開発や設備投資も同様に少ない。また、上場企業の創立年代が古く新しい企業が少ない。この現状を打破するため大規模な投資を行い創業を支援し、中小企業の事業再構築も支援する」ということになるのでしょうか?統計数値からも、まあそんなんだろうなと言えますが、何となく釈然としないのは、じゃあ、これまでこうした現状に陥ったのは何が悪かったのか、欧米に比べて日本だけが新製品が少なく、研究開発や設備に投資をしてこなかった原因はどこにあるのか?それがただ単に新自由主義の行き過ぎた市場依存のみが問題なのか?と聞きたくなります。

右側の3つの見出しに関しては、統計数値は経済成長率とそれに占める家計消費の伸び率くらいしかありませんが。ここでもアメリカに比べて消費が伸び悩んでいることが示されています。

寄稿文の前半において「私は、アベノミクスなどの成果の上に、市場や競争任せにせず、市場の失敗がもたらす外部不経済を是正する仕組みを、成長戦略と分配戦略の両面から、資本主義の中に埋め込み、資本主義がもたらす便益を最大化すべく新しい資本主義を提唱していきます」と書かれています。これによれば市場まかせにしたことが資本主義経済のゆがみに対する最大要因であり、アベノミクスは成果があったとしているわけですので、これでは欧米に比べ日本の状況がなぜ停滞しているのかが理解できません。

このところの日本経済の最大の問題点は、GDP成長率が極めて低いことであることは明白です。岸田寄稿文で指摘されているように新製品や新サービスが低調であることも事実でしょうが、ではなぜ日本に新製品や新サービスが生まれにくいのか、既成市場があまりに閉鎖的なのか、社会がことごとく規制でがんじがらめになっているのか、本当に官民一体となって投資を行えばすべての問題は解決するのか、家計消費は増えるのか、というあたりにも説明が欲しいところです。

昨日の国会における施政方針演説では、具体策に乏しいとの指摘がされているようですが、本寄稿文では、「今夏には具体的な行動に落とし込んだ実行計画を、工程表を明示した上で策定する」と書いていますので、少し時間の猶予を与えてもよいとは思います。その代わり日本の根本問題の本質を明らかにしたうえで整合性のある施策を立案してほしいと思います。

コメント

コメントフォーム

To top