かんとこうブログ
2022.04.20
ロシアから輸入しているものと塗料への影響
今さら目新しくもないのですが、ロシアから輸入しているものにどのようなものがあり、これらの品目の動向が塗料に与える影響について書いてみたいと思います。
ロシアからの輸入品にはどのようなものがあるかということについてネットには情報が溢れていました。そうした中からグラフがとても見やすかったという理由で以下のサイトからグラフを引用させてもらいました。
https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01266/
左がロシアからの2021年の輸入の内訳です。LNG、非鉄金属、石炭、原油・粗油、の4品目で8割近くになります。このうちLNGと石炭はエネルギー用途に使用されると考えられますので、塗料業界も一般的な意味での影響を受けるものと思われます。原油は塗料にとって有機溶剤や樹脂の原料にあたりますので、これが滞るとなると影響が大きいということになりますが、日本の原油全体に占めるロシア原油の割合は2021年で3.6%程度と高くはありませんので、直接大きな影響があるということではなさそうです。ただし、安定供給という意味では存在は無視できず、すぐに輸入を止めるのは難しいという見方が広がっているとありました。
非鉄金属には、アルミ、パラジウム、ニッケル、コバルト、プラチナなどが含まれています。ロシアにはアルミ製造大手のルサールがありロシアのアルミ生産のシェアは世界の6%と言われています。このルサールに対して、オーストラリアからのアルミの原料供給が停止されましたので、世界の需給状況に影響がでる可能性があります。パラジウムについては自動車の排気ガス処理触媒に必須の金属であるために自動車生産への影響が心配されます。コバルトは一部の無機顔料や硬化触媒に使用されていますが、使用量、供給量は限定的ですので、大きな影響はないと思われます。
こうしてみていくとロシアからの輸入品目による特段の影響が塗料に現れるということはなさそうですが、ウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰や円安と言った問題は、すでに小さからぬ問題をもたらしています。
一方左のグラフは日本とロシアの貿易における収支の推移を表しています。日本との貿易においては、ロシア側の圧倒的な黒字(日本からみると赤字)が続いています。ロシアの黒字基調の貿易収支は日本との貿易だけでなく、ロシアの貿易黒字は2020年には世界4位となっています。1位中国5330億$、2位ドイツ2100億ドル、3位UAE935億ドルであり、これらについでロシアは918億ドルの貿易黒字を記録しています。
ロシアから日本への輸入の半分以上はエネルギー関連ですが、いろいろ調べていてこうした状態はずっと以前からではなく最近のことだとわかりました。1990年以降のロシアからの輸入内訳の推移を示します。
石炭(黄色)は1990年以前から輸入品目の上位10品目に載っていましたが、量はさほどでもなく上位5品目に入るようになったのは2008年以降であり、上位3品目に入ったのは2017年に過ぎません。原粗油(ピンク色)も1990年代では石炭以上に細々とした存在でしたが、2007年に一挙にトップに浮上し、その後もトップ争いをしています。液化天然ガス(濃紺)に至っては2009年までは上位10品目にも入っていませんでしたが、2009年にサハリンプロジェクトが開始されるや急伸長し翌年以降は2位以上をキープしています。非鉄金属や業界類、木材など伝統的な輸入品目を抑えて、エネルギー関連品目が輸入の主流を占めるようになったのは、ここ10年ほどのことだと言えそうです。
こうした数字をみていくと、ロシアからのエネルギー関連物質の輸出が急増し貿易黒字が増えて国が豊かになっていったことが今回の侵攻の背景にひとつにも思え複雑な気分になります。
最後に政府の追加経済制裁について。昨日より38品目がロシアから輸入できなくなりました。ウオッカやワインなどのアルコール飲料、丸太やチップなどの木材、自動車・オートバイおよびそれらの部品などが対象ですが、日本にとってはロシアからの輸入金額全体の1%程度にしかならないようです。
冒頭見ていただいたように、輸入の大半はエネルギー関連品目と非鉄金属です。岸田首相は、この追加経済制裁とは別にロシア産石炭の輸入を止めると言明していますので、ウクライナのため、より実効が期待できる石炭の輸入禁止が早期に実施されるよう政府の迅速な措置を期待したいと思います。