かんとこうブログ
2023.01.16
”地球温暖化は心配ない”を考える
文藝春秋2023年2月号の「目覚めよ!日本 101の提言」という特集の中で「地球温暖化は心配ない」と題する短文が掲載されていました。投稿者はキャノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏で、「問題は食料とエネルギーである。コストを度外視したエネルギー政策では世界と競合できない。温暖化リスクを合理的に考えるべきだ。」という論理展開で、「温暖化は心配ない」と結論づけています。個々の指摘自体合理性のある内容と感じましたが、最後の「温暖化リスクを合理的に考えるべき」というところで述べられていることについては、よく考えてみる必要があると思いました。
温暖化リスクに対する氏の主張は以下です。(本文からそのまま引用)
①真っ先に台風による災害の激甚化のリスクが言われるが、そのようなことが起きていないのは統計で容易に確認できる。②数値モデルによる不吉な予測は不確かだ。そのモデルを信じても温暖化は1兆トンのCO2排出量あたりで0.5℃に過ぎない。③すると年間排出量10億トンの日本のCO2では、十年分でも千分の五度しか上がらない。世界のCO2排出量をゼロにする必要もない。④今人類が排出するCO2の半分は、陸地や海洋が吸収している。従ってCO2を半減すれば濃度の増加は止まる。これで地球の温暖化を心配する必要は無くなる。
以上について私の考えを述べます ①の激甚台風の数はさまざまな自然現象の一つに過ぎず、これをもって温暖化のリスクを全否定するのは無理があります。2022年ではパキスタンの大洪水がありましたが、これは温暖化による氷河の融解が原因と考えられています。もっと多角的にリスクを捉えるべきだと思います。
②数値モデルに従えば1兆トンの排出量で0.5℃の上昇に過ぎないとしていますが、まずこの1兆トンの二酸化炭素がどのくらいの量であるかを抑えておく必要があります。2019年の二酸化炭素排出量は世界で335億トンですから、この量を30倍すれば1兆トンを超えます。つまりこのままのペースでいけば100年間で1.5℃以上気温があがることになります。③ここでは日本の10年分の排出量では世界に影響を与えないと言いたいようですが、この計算の意味がわかりません。日本の排出量10年分が大した影響がないのだから、世界の二酸化炭素の排出をゼロにする必要がないというのも論旨が見えません。日本は世界で5番目に多くの二酸化炭素を排出しており、人口あたり排出量でも決して少ないとは言えない量です。
④人類は排出する二酸化炭素は確かに海洋、陸地にその半分程度が吸収されるようです。((下図参照)気象庁サイトから引用)
この図の解説として「海洋は大気から二酸化炭素を吸収しています。その量は、1990~2021年の平均で1年あたり20億トン炭素です(トン炭素:炭素の重さに換算した二酸化炭素の量)。海洋の二酸化炭素の吸収量は、数年から10年程度の規模で変動しながら、全体として増加しています。」とあります。この吸収量億トンは炭素のみの重量ですので、これを二酸化炭素に換算すると約73億トンととなり世界の排出量の2割強になります。
陸地へ吸収についてはここまで定量的な記述が見つかりませんでしたが、「地球上の土壌は、人間が毎年生成するすべての排出量の約 25% を吸収し、この大部分は泥炭地または永久凍土として保持されます。」という記述がありました。
地球上で見つかった炭素吸収源の 4 つの例 - 環境 Go! (environmentgo.com)
従って地球上に放出される二酸化炭素の約半分は吸収されるというのは概ね正しいのですが、半分減らせば全部吸収してくれるというのは正しいのでしょうか?気体と液体、気体と固体の間に平衡が成立しているはずですから、大気中の濃度が減少すれば、海洋や陸地への吸収もまた減少すると考えるできではないでしょうか?
温暖化リスクを考える時に最も基本は以下の二つのグラフではないかと思います。左は毎年の二酸化炭素の濃度上昇、右は二酸化炭素濃度と世界の平均気温の上昇です。左の図からは毎年1.9PPM二酸化炭素濃度が上がっていることがわかります。つまり50年ほどで100PPM近く二酸化炭素濃度が上昇してきています。右の図からは二酸化炭素濃度が100PPM上昇すると約1.0℃気温が上昇することがわかります。ということはこのままでは100年間で約2℃平均気温が上昇することを示しています。これは数値モデルではなく、実際の観測結果から結論です。
世界中の大気の量はおおよそ5.3X10の15乗トンと言われています。一方で、二酸化酸素排出量は2019年では335億トンですから、排出された二酸化炭素濃度は、世界の大気の6.3ppmにあたります。このうち約半分が海洋や陸地、生物に吸収されますので、大気中の二酸化炭素濃度の上昇値は排出量から計算した数値よりも小さくなって2021年では2.5PPMという数字でした。
結論として「地球温暖化は心配ない」とは考えることができないとなります。確かに安全保障、経済などの観点から氏の指摘していた点は考慮にいれられるべきものではあると思いますが、だからと言って温暖化のリスクを過少に評価することは決してしてはいけないことであると考えます。