かんとこうブログ
2023.02.09
環境省のグリーン・バリューチェーンプラットフォームのガイド(その2)
昨日の続きです。
いよいよ具体的な計算方法の紹介になります。(下図のこの資料からの抜粋)
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SC_syousai_04_20220317.pdf
標題に「代表的なカテゴリーの算定方法」と書かれているとおり、Scope3に15あるカテゴリーのうち主要な5つのカテゴリーの計算方法しか示されていません。主要5つのカテゴリーとは、カテゴリー1の購入した製品・サービス、カテゴリー4の輸送・配送(上流)カテゴリー11の販売した製品の使用、カテゴリー12の販売した製品の廃棄の5つです。またカテゴリー9の輸送配送(下流)はカテゴリー4と同様に算定できますので、実質6つのカテゴリーについて説明されています。これら6つのカテゴリーは製品のライフサイクルに沿ったカテゴリーであり、製品を製造する会社の場合には主要な排出カテゴリーということになります。この中に自社の製造に関する排出が入っていませんが、それはScope1とScope2で主に算定されているからです。
その他のカテゴリーの具体的な計算方法については、この説明の最後にご紹介する環境省のデータベースに対する解説書の中に書かれています。
塗料製造業の場合には、カテゴリー1において多種多様な原材料を購入していますので、正確に計算することは非常に困難です。後で詳しく説明しますが、国内で最も充実した原単位のデータベースIDEAv2(残念ながら最新Versionではありません)が環境省が締結している特殊契約により、申請すれば条件付きながらも使用できると書いてありました。そこそこの塗料原材料の原単位はIDEAに掲載されていますので、これを使用すれば個々の製品の算定がより正確にできるようになります。
カテゴリー1の塗料原料算定の簡便なやり方は、上図右に示してある排出原単位表に掲載されている塗料の原単位から原材料の原単位を推定する方法です。理論的には原料のΣ(個々の原料の原単位 X 配合量)+製造時に投入されたエネルギー=塗料製造時までの排出量 ですので、塗料の排出原単位から単位重量あたりの製造時投入エネルギーを引けばそれが原材料由来の排出原単位となるはずです。目欠と容器の問題は無視しましたが、さらに大雑把に言えば、原材料由来のエネルギーに比べて、塗料製造時の投入エネルギーは充分に小さいことが多いので、これも無視できるとすれば、この表に載っている塗料の排出原単位をそのまま原料全体の原単位として算定しても、当たらずとも遠からずと言えるかもしれません。いずれにせよ、塗料の排出原単位が明らかになっていることは塗料業界にとって大きな意義があります。
カテゴリー11と12も塗料製造業にとっては正確に算定するには難しい項目です。建築塗料や防食塗料などの汎用品の場合には、人間が塗装する限り塗装におけるエネルギーの消費は非常に少なく、仮に計算するとしても仮説もたてやすいと考えられます。一方、工業用塗料の場合、特に大型のスプレーブースを使用して焼付乾燥する場合には塗装~乾燥における投入エネルギーが莫大となります。しかもそのエネルギーは個々のラインによって大きく異なっていることが予測されます。正確を期すには自社製品のユーザーに教えてもらうしかないと思いますが、実際にこうしたエネルギーを区分けして測定しているユーザーは多くありません。現在こうした工業塗装における排出把握にむけて活動しているコーティングコンソーシアムの活動により、より正確な数値が明らかになることを期待したいと思います。
さて具体的な算定方法について概略を説明しましたが、環境省が用意しているデータベースについてご紹介します。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate_tool.html
2種類のデータベースが用意されています。
①は環境省のデータベースで、データベースとその解説から構成されています。データベースそのものはエクセルなのですが、単にあけてもどう使ってよいのかわかりませので、必ず解説と一緒にお使いください。これはScope1からScope3を広くカバーしたデータベースです。
②はIDEAv2です。これは産総研が作った排出原単位のデータベースです。基本的には有料のライセンス契約を結ばないと利用できないのですが、以下の文章があります。塗料製造の場合、カテゴリー1の算定には大変有用なデータベースとなります。
「環境省はIDEAv2の特殊ライセンスを取得しています。このライセンスによって、環境省から使用を許可されたエンドユーザーは「自組織のサプライチェーンにおける温室効果ガス排出量算定」を行う目的に限ってIDEAv2を使用することができます」
これまでIDEAのライセンス問題がLCAを妨げている大きな要因であると思ってきました。これが本当であればLCAの実施に対して大きな支援となります。大いに利用すべきだと思います。
これまで環境省の二酸化炭素排出算定支援システムについて、掲載内容の概要を書いてきました。なんとか努力すれば自前で算定が可能であるように思えます。一方で、もっと簡単に算定を可能にするシステムが市場には提供されています。先日関塗工でセミナーを開催したゼロボードもその一つで、環境省のデータベースを利用して計算するのですが、質問に答えていくだけで排出量計算が終了するように作られており、支援システムとしてかなり普及しているようです。
2050年カーボンニュートラルは確かにまだ先ですが、現在日本の正式な二酸化炭素排出削減計画の目標年度は2030年です。この先2030年にむけてますます炭素排出に対するプレッシャーが高まるものと予想されます。早い時期に自社の排出量を把握しておくことは、将来予想される炭素税導入対策だけでなく、BCPとしても重要な課題になるのではないかと思います。