かんとこうブログ
2023.05.02
日本ペイントホールディングスの中期経営計画進捗説明資料の中で注目した点について
4月20日に日本ペイントホールディングス株式会社の中期経営計画進捗説明会が開催され、その説明資料と質疑応答の内容がホームページ上で公開されています。残念ながら進捗説明会を視聴することはできませんでしたが、公開されている説明資料と質疑応答内容は大変興味深いものでした。その中から、私が個人的に興味を持っている部分についてご紹介したいと思います。なお資料は以下のURLで公開されています。
説明資料 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/assets/files/name/20230407ir01_j_1.pdf
質疑応答内容 https://www.nipponpaint-holdings.com/ir/library/materials/20230407_qa/
私が興味を持っているのは以下の3点についてです。 1.建築市場に対して塗料周辺商品をどう扱っていこうとしているのか? 2.日本グループをどうしようとしているのか? 3.サステナビリティ、特にCO2削減に対してどのように取り組もうとしているのか? 以上の3点について関係する説明資料と質疑応答内容から抜き出してご紹介したいと思います。
まず最初の塗料周辺商品です、これまでのM&A事例の中で再三にわたり買収事例が紹介されてきました。SAF(密封剤、接着剤、充填剤)とCC(建設化学品」)は、住宅建設において塗料とその機能や使われ方が塗料に近いものがあり、塗料周辺商品と呼ばれ、塗料とともに商品構成に含めている塗料会社も存在しています。これら周辺商品も商品系列に加えることで、建設市場での存在をより強固にすることが可能と考えることができます。
この塗料周辺商品について、投資家から以下の質問がありました。回答ともに示します。
日本市場において塗料周辺商品を品ぞろえに加えるかどうかという質問には、日本市場の特性を見極めて決定する、また今後も株主価値最大化に資すると判断できればM&Aを行うという回答でした。日本市場はともかく、日本ペイントグループとしては、こうした動きが今後広がっていくのは間違いありません。
2番目の日本市場に対してどう体制を構築していくのかという点については、以下のスライドで説明されています。
2022年は、自動車の生産の回復の遅れもあり、日本グループの営業利益率が低迷しました。これに対して3つの対策が出されています。これまで日本グループについては、あまり表立って経営施策が示されることが少なかった印象がありますが、今回は明確に①製品値上げ、②分社化と希望退職者募集による人件費削減、③事業構造と意識改革が打ち出されました。日本グループの現状は、 NIPSEAグループに比べ、いろいろな面で経営の効率化が十分ではないとの認識がなされているのではないかと想像しています。
この点についても投資家から質問が出ていましたので、これもご紹介したいと思います。
一つ目質問の国内拠点の再編については、「老強化設備の更新が優先で、必要な分野には投資する」スタンスで、BCP対策も行うとしています。二つ目の質問は大変興味深い質問でした。日本ペイントが2009年当時、文字通り生き残りをかけて行った「サバイバルチャレンジ」についての総括とも言える内容が述べられており、「経費削減によって収益性が大幅に改善された反面、投資抑制により持続的成長に影響がでた」としており、今回の「J-LFG」では、その轍を踏まず、必要な投資を行いつつ筋肉質に成長する」としています。いずれも合理性に満ちた方針と思われます。
3番目のサステナビリティに対してどのように取り組もうとしているのか?については以下のスライドで説明されています。
サステナビリティに関してはトップダウン型からボトムアップ型に転換するとし、3つの柱(環境&安全、人とコミュニケーション、イノベーション)とマテリアリティ(長期目標)を横断する二つの柱(ガバナンス、調達)の課題に対してそれぞれチームを編成し、チームのリーダーがトップに直接報告するとしています。
これについても質問がでており、よりボトムアップの内容が具体的に回答がされています。
この回答は、ボトムアップの意味をよく言い表しており、「日本の本社が主導するのではなく、環境・安全についてはオーストラリアのDulux Groupに、調達についてはNIPSEAにそれぞれリーダーを委ねる」としています。日本の本社を客観的に評価して、サステナビリティについては本社以外に主導権を取らせた方がよいと判断したようです。これも極めて冷静な判断だと思います。
このサステナビリティについては、個人的には二酸化炭素の問題にどう取り組むつもりなのかに最も関心があったのですが、Scope1、2に関しては削減目標が示されているものの(下図)、今後Scope3、特に塗装に関わる二酸化炭素排出削減にどう取り組むかについてはほとんど言及がありませんでした。
自動車塗装をはじめとした工業用塗装においては、現時点で多量のCO2排出を伴うものが多く、ユーザーサイドでは排出削減が大きな課題となるはずです。日本ペイントグループは2023年12月時点の売上高の予想を1兆4000億円としており、世界のトップカンパニーの揺るぎない一角を占めることは間違いありません。業界のリーダーとして塗装におけるCO2排出削減について、塗料製造者としてどう取り組んでいくのか、主体的に推進する姿勢を見せてほしいと感じました。