かんとこうブログ
2023.05.26
塗料使用量は毎年20,000トン以上減り続けているという事実
このところ、経産省確報のご紹介をするたびに数量が減少し続けていることが気になっていました。数量は必ず金額とセットで発表されるので、どうしても金額の方に目が行きがちです。金額はこのところ原料高騰に由来する塗料単価の上昇のおかげで前年比がプラスの状況が続いているため、なんとなくそれで安心してしまいがちです。需要の指数としては金額よりも数量の方が重要とかねがね思っておりますので、一度ちゃんと数量における傾向を調べてみようと思っていました。今日は、日塗工が公開している経産省確報の暦年データから塗料数量の長期傾向を調べてみました。金額のデータは一切出てきません。数量だけでみるとこうなっているという話をしたいと思います。
調査対象は1995年(平成7年)から2022年(令和4年)までの27年間です。シンナーを含めた塗料全体の出荷数量、溶剤系塗料の出荷数量、水系塗料の出荷数量、無溶剤系塗料の出荷数量の推移を一挙に示します。
一次式で近似させていますが、R2乗値が0.9を超えているのは溶剤系塗料くらいなので、はたして近似として用いるのが適当かどうかという議論は置いておくとして、いずれも減少傾向であると示されました。今後増えて行くと期待される水系塗料も無溶剤塗料も、出荷数量的には決して増加傾向にありません。実は水系塗料だけは、後述するようにその構成要素であるエマルション塗料も水溶性樹脂塗料も個別に見ると若干の増加傾向なのですが、その増加率は微々たるものです。
全体としては毎年22,000トンも減少してきており、予想を上回る減少ぶりでした。
シンナーとその他塗料を除いて、溶剤型+水系塗料+無溶剤型塗料の合計で見てもやはり結果は同じで、毎年19,000トンずつ減少してきています(下の上図)。ただし、減少の仕方は、それぞれ異なっており、溶剤型が最も減少が大きいため、調査対象の27年間で、溶剤型はそのシェアを大きく減らし、水系がシェアを増やし、無溶剤型のシェアは微増となっています(下の下図)。
これまでも環境配慮型塗料としてその採用増が期待されてきた水系と無溶剤系塗料ですが、ここの構成要素に分けてみると以下の状況でした。確かに増加傾向にあるものが多いとは言え、その増加割合は塗料全体に比べると非常に小さいと言わざるを得ません。
この4種類の塗料のうち3種類は増加傾向にあると見ることができますが、その増加量は3種をあわせても1000トン/年に過ぎず、溶剤系塗料の減少の5%程度にしかなりません。
ここまで触れてこなかったシンナーですが、シンナーの減少率は塗料のそれよりも緩やかになっています。シンナーには希釈、年度調整の他に洗浄という用途もあるためと推測しています。
今まで述べてきた各塗料種別の増減率(トン/年)を下表に示します。
2008年からのリーマンショック時には、国内生産が海外にシフトしたということもあり塗料の使用数量は、それ以降もリーマンショック前には回復しませんでした。今回のコロナ禍については、そうした産業構造の変化はないのでコロナ禍前に戻るのではないかという期待もあるようですが、一方でCO2をはじめとする環境圧力がますます強まることは間違いありません。工業用塗装を中心に塗着効率を高め、焼き付けに要するエネルギーを最小化する方向で塗装が変化していくことは確実と見られています。これまで見てきたように、水系や無溶剤系といった環境配慮型塗料の普及の歩みは極めて緩徐でした。今こそ塗料塗装業界が一丸となって大変換期に備える時期が来ているのではないかと考えています。