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かんとこうブログ

2023.06.01

北海道石の光る成分はペリレン!?

今週はじめの朝のニュースで北海道石という新しい岩石が、国際機関において命名承認、登録されたと報じられました。この岩石は紫外線を照射すると蛍光を発するのですが、この発光成分が有機物であるとのこと。しかも物質名は「ベンゾペリレン」と言うではありませんか?ベンゾがついていない「ペリレン」は塗料でも使用される有機顔料の名前であると記憶していましたので早速調べてみました。

まずは、プレスリリースの内容からご紹介します。

発表したのは相模中央科学研究所、東海大学、大阪大学の3者で北海道石はその名の通り、北海道で発見したものです。地層中の化石が熱を受けてできると考えられています。紫外線を照射すると蛍光を発しますが、この発光物質が「炭素と水素だけからなる有機化合物ベンゾペリレンの天然結晶」と書かれています。

このベンゾペリレンについては以下のように説明されています。かいつまんで言うと、「機能性物質として知られる多環芳香族炭化水素(PAH)一つにコロネンと呼ばれる芳香環が7つ連結した物質があり、このコロネンは高温で最も安定なPAHであり、天然に産出し、地質学の証拠となっている。ただしどうやってできるのかが不明であったが、今回の発見によりこのベンゾペリレン経由で生成すると推測されるようになった。」と言うことです。

ところでこのベンゾペリレンですが、どうも私たちが知っている顔料のペリレンとは違う物質のようです。下の構造をご覧ください。

左からコロネンベンゾペリレン、ペリレンです。左から右に行くに従って、炭素が2つずつ、環構造が一つずつそれぞれ減少するという関係になっています。

それでは顔料で使用されているペリレンとはどんな構造をしているのでしょうか?これを説明するのに、いつものように中畑さんから資料をお借りしました。少し難しくなりますが、顔料のペリレンをどうやって合成していくかというところから見ていきたいと思います。

この図は、ペリレン顔料の生成プロセスを示したものです。最終的にできあがる顔料によって、プロセスは異なっていますが、赤枠で囲った「PV29」も青枠で囲った「ペリレンクルード」も、その構造をよく見ると上で述べた5つの環がくっついたペリレンが中心にあり、その中心部の両端にカルボキシイミドができているのがわかると思います。ただし、これを作り上げるプロセスはペリレンから作っていくのではなく、全く異なるアセナフテンという物質から作られるようです。

つまり、私たちが知っているペリレン顔料のペリレンは、ペリレンにテトラカルボキシジイミドを導入したペリレン化合物だったのです。ここで大事なことはペリレンもペリレン化合物も特異な電子的性質を有しており、その性質が利用されているということです。多環構造は平板構造をとる場合が多いため垂直に重なり合う構造をとりやすく、重なりあった状態においては豊富に存在する二重結合のπ電子どうしが相互作用を及ぼしあうことは十分に予想されます。

さてここでペリレン顔料の説明となるのですが、色材協会の最新顔料講座の資料をお借りしました。

ペリレン顔料の主要な特徴は上の囲みの中にまとめられています。 こうして一覧表で見ると、両端の置換基が少し変化するだけで、色域が変化していることに気づきます。しかし、このように分子のほんの一部が置き換わっただけで果たしてこれほど色が変化するものでしょうか?これらの顔料は、結晶化していない単分子の状態で溶媒に溶解させるとほとんど同じ色になるというではありませんか?

中畑さんは、この疑問にも答える資料を提供してくれました。実はペリレン顔料は、上表中の分子が結晶化したものであり、単分子ではありません。はじめの方で、ペリレン顔料は、その構造から垂直方向に重なる構造をとりやすいと述べましたが、その重なりあい方が、置換基によって大きく変化するため、結晶化した顔料では、その分子構造のわずかな違いで色域が大きく変化するのです。

この図は、BASF20種類のペリレン顔料について、その結晶状態における置換基と重なり合い方およびその色を調べたものです。右側の部分に置換基がフェニルエチレン基の場合と、その置換基の水素のひとつがメチル基に置き換わった場合の比較を示していますが、メチル基がひとつ増えただけで、劇的に重なり合い方が変化する様子が示されています。メチル基の増加により、重なりあい方が大きく減少し、色調が黒から赤に変化しています。そしてこうした現象が実際の顔料においても利用されているのです。大変に興味深い思いがします。

北海道石・・発見場所にちなんだ命名と思われますが、ロマンあふれる良い名前だと思います。ちょっと寄り道をしてペリレン顔料の不思議の一端を簡単に紹介させてもらいました。

本ブログ作成にあたり、元関西ペイントの中畑顕雅氏からアドバイスと貴重な資料の提供をいただきました。心より深謝申し上げます。

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