かんとこうブログ
2023.09.01
ブダペストへの道最終編・・成績の総括
8月27日に終了した2023陸上競技の世界選手権ブダペスト大会の日本選手の成績について客観的な立場から検証してみたいと思います。こうした大きな大会が終わると、その成績に関していろいろな論評が出ますが、どうも客観性に欠けるように感じていますので、できるだけ客観的にみたらどうだったのかという立場で検証してみたいと思います。
今回の日本選手団について、陸連は「史上最強」と評していました。従って史上最強の選手団には史上最高の成績が期待されることになります。そこで、この検証においては、①選手たちは実力を発揮できたのか?②今回の成績は史上最高なのか?の二点について検証してみたいと思います。
①選手たちは実力を発揮できたのか?を客観的に判断する方法として、事前ランキング(最終編2023.8.2)と成績の相関を調べてみました。近年は、一定期間に出された記録を対象としたランキングの上位から順に権利が与えられます。つまりランキングこそがコンディショニングを含めた選手の実力を示す指標であると言えます。一方大会ではすべての競技において順位がつけられています。すべての競技は、予選、準決勝、決勝と最高3段階のステップで順位が決まりますが、それぞれのステップごとに順位がつけられます。予選で敗退した人は予選の順位、準決勝で敗退した人は準決勝の順位、そして決勝に進んだ人は決勝の順位を実際の成績として、さきほどのランキングと比較すれば、その成績がランキングに比べてどうだったのかを判断することができます。単に成績について主観でものをいうのではなく、ランキング順位との対比で判断すべきであると申し上げたいのです。以下の表が出場全選手のランキングと成績の一覧です。
これを眺めただけでは、なかなかわかりにくいかと思いますので、男子トラック、男子フィールド&ロード、女子に分けてグラフ化してみました。出場選手の中には、繰り上がりで出場権を得た選手もいますので、その場合にはランキング順位が低くなりすぎますので、繰り上げてターゲットナンバーまたは出場選手数をその選手のランキング順位としています。
黒い斜めの実線がランキング順位=実際の成績のラインです。これよりも上側のプロットはランキングよりも実際の成績の方がよい場合になります。また点線はその一次近似式であり、この図においては全体として実際の成績が上回るケースが多かったことを示しています。
今回の男子トラック種目は全般に健闘が目立ちました。具体的には400Mの佐藤拳太郎、佐藤風雅、中島、100Mのサニブラウン、200Mの飯塚、400MHの黒川、4X100MRなどが実際の成績がランキングをかなり上回りました。成績がランキングを下回った場合が少ないのですが、あえて例をあげると4X400MRがランキングよりも成績が下回った例に該当します。
次に男子のフィールド種目とロード種目を示します。
こちらは先ほどのトラックとは異なり、ランキング順位=実際の成績の線よりも下のプロットが多くなっています。特にランキング上位者のそうしたケースが多くなっており、このため点線の一次近似式が横に寝てしまいました。とりわけ赤で示した競歩の中でも20Km競歩とマラソンで、これらの種目ではランキング上位者の成績が低迷したケースが多くこうした分布になっています。
次に女子です。女子は全体数が少ないので1枚に全部収めています。
女子全体では、一次近似式がランキング順位=実際の成績の線にほぼ重なりました。つまり概ねランキング通りの順位になっているということになります。この中でランキングよりも大きく成績の順位を上げた選手を挙げると、5000Mの田中、10000Mの廣中、35Km競歩の渕瀬が挙げられます。もちろん、やり投げの北口、35Km競歩の園田も成績がランキングを上回っています。
以上みてきたように、成績がランキングを上回った選手も下回った選手もいますが、入賞をしている選手を見るとひとりを除きランキング順位を上回る成績を残しています。やはり本番でいかんなく実力を発揮できることが入賞の条件になるようです。
次に今回のメダルと入賞者の数についてです。下表に2007年以降の世界選手権でのメダル獲得数と入賞者数の一覧を示します。
今回は獲得メダル数が2、4~8位の入賞者数が9でした。史上最強という割にはメダルが少なかったではないかと思われるかもしれませんが、実はこのところの5大会ほどを見るとメダルのほとんどは競歩で獲得しているのです。競歩を除けば、今回のメダル数は普通とも言えます。一方入賞者数9はこれだけでも史上最多なのですが、競歩を除いた場合でも史上最多となっています。入賞者数最多をもって史上最高の成績とかろうじて言える線には達しているのではないかと思います。
最後に選手選考に関して一言申し上げたいと思います。それは標準記録突破と日本選手権の上位入賞のどちらを優先させるのかという問題に関しての陸連の決定についてです。男子110MH、女子100MHでは標準突破者よりも日本選手権入賞の方を選択しました。一方で、男子100M、200Mでは日本選手権の成績よりも事前ランキングの順位を優先させました。これらを見ると標準記録突破の扱いが軽すぎないかという疑問が出てきます。標準記録の突破は選考条件の最初に書かれている条件であり、最も優先されるべきもののはずであり、今回の日本陸連の判断が納得できません。
今回の世界選手権の結果を見ると、日本選手権終了後の6~7月の競技会で欧州などを転戦した選手が好成績を残した印象があります。そしてその日本選手権以降の競技会の成績も最終的な選考に影響があったと思われます。であるならば、日本選手権優先という名目は恣意的な選手選考の方便ではないかというそしりは免れないのではないかと思っています。選手が納得できるわかりやすい選考基準を設けてもらいたいと思います。