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かんとこうブログ

2023.09.05

海水温上昇が台風に及ぼす影響について

記録的な暑さの7月8月が終わり9月に入っても全国的に暑い日が続いています。暑さは地上だけではなく、海上でも続いており、海面温度の上昇が確実です。海面を含む海水温度の変化は漁業に大きな影響を与えるだけでなく、台風の激甚化を助長するのではと言う懸念が払しょくできません。よく知られているように、台風のエネルギー源は海水面から供給される水蒸気であり、海水の表面温度が27℃を超えることが台風発達の条件と言われています。今日はこの海面温度と台風の関係について調べたことをご紹介したいと思います。

最初に調べたことは水の飽和水蒸気圧です。26℃では発達せず、27℃で発達するとなればそこに何か特別な変曲点でもあるのかということが疑われますが、事前に予測できたように、温度と飽和蒸気圧曲線との関係において26℃と27℃の間に特別な変曲点など存在しませんでした。(下図)また、27℃の飽和蒸気圧の値にも特別の意味があるともも思えませんでした。

そこで初心に帰り台風が発達していく過程について調べてみました。知っているつもりでしたが、知らないことがたくさんありました。最初に引用させてもらう資料は気象研究所のサイト(下記)の資料から当方で作成したものです。

https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/awada/TyphoonSST.html 

  

水蒸気の動きでみると海面から蒸発し、風が引き起こす海面との摩擦により台風の中心に運ばれると、目の壁に沿って上昇し上空に達すると冷やされて雨となり、海上へ落下するということになります。図中赤字で示したように、海水温度が高いほど勢力が強くなるとされています。同研究所のサイトから引用した下図において大気中の矢印を追うことでこの水蒸気の動きを確認してみてください。

  

しかし、台風の勢力を決定するのは海面温度だけではありません。大変多くの要因が存在していますので、これをそれから説明します。最初の要因は上の説明の②における大気と海面の摩擦です。この摩擦は台風を引き締め台風の形を整える一方で、海面を激しくかき混ぜることで海面の温度を下げる働きをします。これをエントレインメント(海面波浪の反作用としての深部海水の取り込み)と言います。海面温度が下がれば供給される水蒸気量も減りますので、この波浪による作用は、台風の勢力の増減に対して両面の働きがあることになります。

  

この他にもエクマン湧昇(台風の低気圧による深層水の表面移行)という現象もあります。これは台風の中心気圧が下がることで深層水が表面に移行する現象です。さきほどのエントレインメントとともに海面温度を下げる方向に働きます。さらに風の鉛直シアが大きい(高度によって風速、風向が大きく異なること:下図)ことなども台風の勢力に影響を与えるようです。

   

  

  

さらにエルニーニョ、ラニーニョによっても台風の発生件数に差があるというデータもあります。(海面水温上昇による台風の発達の変化 佐藤凌輔、 大河内康正(熊本高専)下図)ですので、単純に海面温度が高ければ台風の勢力が増すというわけではないのです。

   

   

こうなると要因が複雑すぎて、果たして海面温度が高くなったからと言って台風が激甚化するかどうかを予測することなどできないのでは心配になりますが、調べてみるとちゃんど科学的な根拠に基づいた予測が行われていました。科学的予測の例を二つご紹介します。予測の具体的方法については大変難しい内容で私の理解を超えておりましたのでご紹介は略させていただきます。

  

この論文では、海水面の温度上昇に伴い、発生位置が移動し、風速の影響は一概には言えないまでも降水量は増加するとしています。続いてもう1件ご紹介します。

   

この予測においては、海水温の上昇に伴い風速増加率が着実に上昇していることがわかります。

   

さらに公的に発表されている予測としては以下のものがあります。

  

これは論文ではなくJamstecサイトからの引用で、気候変動に関する政府間パネルの第6次評価報告書の内容紹介として「2℃の気温上昇における台風の変化」として述べられています。ここで台風の発生件数が減るとしていますが、他の予測においても、気温の上昇により大気が安定化することで、発生件数が減るという予測が見られます。ただし、件数が減ったとしても、強い台風が発生する確率は増加するため、結果として強い台風の件数は増加する計算になります。また平均的台風の風の強さも降水量は増大するとしています。

   

今回調べてわかりましたが、台風は思っていた以上に複雑で、おおがかりかつダイナミックな自然現象であることがわかりました。海面温度の上昇により、ますます台風は激甚化するようですので、やはりできる限り海面温度の上昇は抑制しなければならないことが改めて認識されるのではないかと思います。

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