かんとこうブログ
2024.02.08
再び うたコンに行ってきました・・今度は化学の話
一昨日、またNHKのうたコンの公開放送を見にNHKホールに行ってきました。毎回申し込んでいたのですが、運よく2回目の当選となりました。今回は、前回と違い、入場の際にプラスチックの棒状のものが配られました。そうです。蛍光を発するケミカルライトまたはペンライトと呼ばれ、コンサートなどで歌にあわせて聴衆が振るあのライトです。配られた段階では、光を発しておらず、ポリエチレン外皮を通して黄色い液体が入っているのが見えるだけでした。化学者の端くれとしては、これは二種類の液体を混ぜあわせて発光させるに違いないとは思ったものの、どのような化学反応なのかわかりませんでしたので、あとで調べてブログに書こうと思った次第です。
ただ、ペンライトの前に一昨日のうたコンの出場者と曲目についてご紹介したいと思います。以下NHKのサイト(下記URL)からの引用です。
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2024020607579
上段中央は矢印で名前が隠れてみえませんが、堺正章さんです。テーマは「阿久悠特集▽追悼・八代亜紀」で作詞家の阿久悠さんと八代亜紀さんにまつわる歌が多く披露されました。
曲目は以下の通りです。石川さゆり「能登半島」&八代亜紀をしのんで「舟唄」カバー▽国民的ドラマ「時間ですよ」裏話とともに堺正章「街の灯り」▽岩崎宏美「思秋期」▽市川由紀乃「北の宿から」▽西川貴教「ブーメラン ストリート」&ガンダム「FREEDOM」▽石丸幹二が僕青と共演「さらば涙と言おう」▽真田ナオキ「酔えねぇよ!」▽僕が見たかった青空「卒業まで」
この中での圧巻は石川さゆりさんが初めてカバーしたという八代亜紀さんの「舟唄」でした。ご本人いわくどう歌っても阿久悠から「ちがうよ!」と言われそうな気がしてならなかったと言いながら、素晴らしい歌声を披露してくれました。一見に値します。
さて話をケミカルライトに戻します。これは所謂化学発光を利用したものであり、「過シュウ酸エステル化学発光」と呼ばれる反応を利用したものです。以下「国立大学55工学系学部ホームページ」(下記URL)から引用して説明していきます。
https://www.mirai-kougaku.jp/laboratory/pages/181012_02.php
この化学発光は要約すると、「酸化によって生成した過酸化物の分解の際に生じる化学エネルギーが蛍光物質の励起状態(分子内の電子が励起したエネルギーの高い状態)を生じてその蛍光を放ちます。励起される蛍光物質の種類に応じて様々な色の発光が観察されます。」ということになります。「この反応はホタルをはじめとする多種類の生物でも行われており、生物がつくる特殊な化合物が酵素の働きで空気中の酸素と反応してその生物特有の蛍光色を発します。」とも説明されています。代表例としては、血液などの検出に用いられる「ルミノール反応」と夜店などで売られている光るリングに使用される「過シュウ酸エステル化学発光」があります。今回はケミカルライトに用いられることが多い「過シュウ酸エステル化学発光」について詳しく説明します。
この過シュウ酸エステル化学発光で起きている反応を下図に示します。
左図に反応全体の概要が書かれています。出発物質は上段左上のRO-CO(=O)-C(=O)-ORで、実際にはビス(2,4,6-トリクロロフェニル)オキサレートが用いられます。これに過酸化水素水が作用すると高エネルギー中間体が生成します。この高エネルギー中間体は右図に書かれているようにかなり歪んだ構造を持った過酸化物であり、不安定な構造のため、二酸化炭素とR-OH(この場合は2,4,6-トリクロロフェノール)に分解する際にエネルギーを放出します。(左図上段の化学式の右部分)ここで放出されたエネルギーが蛍光物質に作用し、蛍光物質を励起させ発光させる(左図化学式中段~下段)という仕組みになっています。
と書くと簡単なようですが、実際にケミカルライトとして使うためにはいろいろと工夫が必要です。まず、この反応は永遠に継続するわけではないので、過酸化水素の酸化能力がなくなれば終了します。なのでシュウ酸エステルと過酸化水素は分けて保存し、使用するときにすぐに混合できるようになっていなければなりません。これをどう解決しているかというと、反応物の一方をガラス製のアンプルに入れ、そのアンプルをもう一方の反応物とともにポリエチレンの筒に入れ密閉しておき、使用する際にはスティックを折り曲げ、中のガラス製の容器を破壊し両者を混合するのです。よく考えられた混合方式です。
もう一つのポイントは、使用される溶剤です。シュウ酸エステルと過酸化水素(水)はそのままでは混合しませんので、適切な溶媒に溶解させておく必要があります。ここで使用されるのがTHF(テトラヒドロフラン)です。水も油もよく溶解するので、両者が反応するための場を提供してくれます。THFは塗料ではあまり使用されることはありませんが有機合成ではよく用いられている溶媒です。
以上がケミカルライトの反応とその仕組みです。異なる色素を使用すればいろいろな色のケミカルライトができあがります。この国立大学55工学系学部のサイトには、蛍の発光の仕組みも載っていましたので、最後にそれを載せて本日の締めといたします。それにしても、石川さゆりさんの「舟唄」はとても心に沁みました。
説明:アミノ酸などをもとにしてホタル体内でつくられたホタルルシフェリン (firefly luciferin) (上段左端水色)がアデノシン三リン酸 (ATP) と反応した後、酵素ルシフェラーゼの作用により空気中の酸素分子を使って四員環の環状過酸化物(中段左端黄色)を生成し、二酸化炭素を放出して最終的にオキシルシフェリン(下段、緑色)という蛍光物質の励起状態を生じます。この蛍光が我々が見るホタルの光です。オキシルシフェリンを取り囲むアポタンパク※の構造によって微妙な色合いの相違があります。
※アポタンパク:正式名アポリポタンパク、リポタンパクに結合しているタンパク質で、リポタンパクの代謝を調節するさまざまな作用をもつ。リポタンパクは、脂質を血漿中に安定に存在させるために結合するタンパク質である。
説明は難しいのですが、二つの物質が反応して、過酸化物の不安定な四員環構造が生成し、それが分解する際に二酸化炭素を放出し、発光物質を励起させて光らせるというプロセスは上述したケミカルライトと同じです。