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かんとこうブログ

2024.03.08

脂肪の吸収を抑制する市販薬について

最近ニュースで脂肪の吸収を抑制する市販薬が発売になるということを知りました。元技術者としては、気になりましたので調べてみましたので、中身、作用機序、臨床データなどをご紹介したいと思います。

大正製薬から発売される脂肪吸収阻害薬「アライ」の有効成分は「オルリスタット」という物質です。この「オルリスタット」は、脂肪が消化される過程で、脂肪分解酵素であるリパーゼの働きを阻害し、脂肪の分解を抑え吸収を防ぐ働きがあります。大正製薬のサイト(下記URL)より引用してご紹介します。

https://brand.taisho.co.jp/alli/#01 

脂肪は体内でリパーゼによりグリセリンと脂肪酸に分解されます(上図右上)。オルリスタットはこの分解工程を阻害することで脂肪が吸収されることを防ぎ、分解されなかった脂肪は便として排泄されるという仕組みです。

臨床データも開示されており、その有効性も明らかになっています。「内臓脂肪面積変化率」試験では、二重盲検比較試験(治験薬と偽薬を被験者に知らせないまま有効性を試験すること)において、24週間では約8%、52週間(1年)の長期試験では約21.5%面積が縮小したとしています。(下図)

また、「腹囲の変化量」に関しては二重盲検比較試験において、24週では約1cm、52週間の長期試験においては、4.7cm減少させたとしています。(下図)

詳細な試験条件については同社のサイトよりご参照ください。

また気になる副作用については、「副作用のほとんどは、アライの薬理作用によると考えられる油の漏れや便を伴う放屁など以下のような消化器症状でした。」との記述がありました。重篤な副作用は認められなかったようです。

さて、有効性と副作用はわかりましたが、実は個人的な興味は、このオルリスタットの構造とさらに詳しい作用機序にありました。さすがにそこまでは大正製薬のサイトに開示がなく、構造についてはウイキペディアに記述がありましたのでそこから引用してご紹介します。(余談ですが、ウイキペディアはこうした薬剤に関する情報が実に豊富に掲載されています。)

結構複雑な構造をしていますが、リパーゼの活性阻害は右下の窒素原子付近の構造によるものではないかと想像されます。これを読んで初めてしったのですが、このオルリスタットは、ロシュやグラクソスミスクラインによりすでに海外で販売されていたもののようです。であれば、安全性はそれなりに安心できそうです。

ネットを探しているうちに、もう一つ興味を惹かれる記述を発見しました。Diamond On Lineから引用します。

https://diamond.jp/articles/-/317897

冒頭、この薬は市販薬として発売されると書きましたが、医療用医薬品としては申請をしていないようです。そのことについて、このDiamondの記事では、2013年に武田製薬から医療用医薬品として申請されたリパーゼ阻害薬が、国内承認を取得したものの公的薬価をつけることを見送られたことを考慮したのではないかと考察しています。マーケット戦略上の判断として興味深く感じました。

この「アライ」ですが、市販薬ではありますが、すぐに店頭で買えるというものではありません。服用の3か月前から生活改善に取り組み、記録を残し、それを薬剤師に確認してもらうことが必要となります。(下図)

さらにやせすぎの人は服用できないなどの制約条件もあります。(下図)

こうした条件を付したことからも、本薬の発売に関しては、周到に準備をしたのではないかと想像されます。果たして目論見通り、市販薬として条件付きで発売することが成功するかどうかも興味を惹かれます。

最後にもうひとつ。書き忘れましたが有効成分である「オルリスタット」のリパーゼ阻害の作用機序ですが、リパーゼ中のセリン(アミノ酸の1種)に取りつき活性を阻害するらしいという以上の情報は得られませんでした。

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