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かんとこうブログ

2024.05.30

油の科学、あれこれ

夕方の情報番組で、賞味期限や消費期限が延長された食品が紹介されていました。そのうちのひとつが食用油で、保存中における酸化を防ぐことで消費期限を伸ばすことに成功したと紹介されていました。取材先が日清オイリオでしたが、何やら板状のものを油の中に差し入れ、そこから微小な窒素の気泡を噴出させて油の中に存在している酸素を追い出すことで保存中の酸化を防ぐという説明でした。塗料でも植物油を使用した塗料があり、貯蔵中の皮張りなどが問題になります。どのような技術か気になりましたので、さっそく日清オイリオのホームページを調べてみました。

ところが、結論から言うと「微小な窒素気泡を噴出させて油中の酸素を追い出す」という技術については、全く記載のかけらもありませんでした。日清オイリオのホームページに載っていたのは、キャップ充填時に容器のヘッドスペースに存在する空気中の酸素を、窒素充填によって追い出すというものでした。(下図:下記URL参照)

https://www.nisshin-oillio.com/enjoy/oxidize/

   

   

こうした窒素充填は、おそらくどこの塗料メーカーでも油性塗料に対してやっていることではないかと思います。日清オイリオのサイトでは、容器のヘッドスぺースの空気を窒素で置換することで酸化が抑制される様子が上の右下図で示されています。この方法は「酸化ブロック製法」と名付けられており、特許が成立しているとして、特許番号まで書かれていましたので特許の出願内容を調べてみました。

この特許は2009年に出願されているのですが、内容はいささか驚きの内容でした。極めて細かく精密に窒素の充填方法が記載されていたのです。窒素を封入するノズルの形状はもちろん、挿入角度、挿入量や時間、装置のレイアウトなどこのままトレースして製造ラインを作ることができるのではないかと思うほどでした。

テレビで紹介された窒素バブル吹き込み法の情報ではなかったので、日清オイリオの特許を新しいものから順に100件ほど覗いて見ましたが、それらしきものはありませんでした。そこで、方針を変えて油の酸化防止全般に範囲を広げて調べてみました。すると面白い情報が見つかりました。(下記URL参照)

https://nakatani-peoffice.com/2019/11/08/oiloxidation3/

   

   

まず気になる油中に存在する酸素の濃度ですが、最大で2.4Vol%溶解すると書かれており、文献記載のデータも掲載されています。上図ではすべてキャノーラ油そのものとそこへ100ppmのシリコーン油(ジメチルシロキサン)を添加したものを比較しています。

  

まず室温での酸素の溶解ですが、右上図が室温における相対酸素溶存率で、わずか2日間空気中に放置すると最大溶解度一杯まで酸素が溶け込みます。そして室温においてはそのまま酸素溶解度は保持されます。ところが温度が60℃になると状況は一変します。溶解していた酸素の濃度が低下し始めるのです。(左上図)この減少は溶解した酸素が油を酸化し過酸化物に変化させるためですが、シリコーンを添加した場合にはそうした過酸化物生成が抑制されるため、酸素濃度の減少割合が低いと説明されています。

  

今の現象を今度は過酸化物の濃度から見たのが下左図(室温)と下右図(60℃)です。室温における過酸化物生成の速度は遅く、シリコーン有無による差は明確ではありません。しかし60℃では、シリコーンの存在が過酸化物生成を抑制していることがわかります。

   

こうしたシリコーンの抑制効果の理由を求めると、それは油の表面、言い換えると空気との界面に偏在することで空気中からの酸素の溶解を防ぐ効果に帰すると考えられますが、一方で室温では酸素の溶解自体は抑制していないということと矛盾するようにも思います。まあ、実験結果を尊重すれば、理由はともあれ、シリコ―ンの添加は高温貯蔵条件における過酸化物抑制に効果があるということになります。であれば、油を含む塗料にシリコーンを添加すれば過酸化物抑制ができ、貯蔵安定性が向上するかもしれません。ただし、一方でシリコーンは「ハジキ物質」であり、添加量によっては塗装時に欠陥を生じる可能性があることも意識しておく必要があるでしょう。

  

さらにこのサイトの説明の末尾には「その溶存酸素の低減の方法としては、窒素など不活性ガスの接触・吹き込み(バブリング)による置換や、減圧下における脱気などがあります。」という一文がありました。つまり、不活性ガス(酸素を含まないガス)の吹き込むによる酸化防止は、すでに公知化されているということで、これも考えてみると当然です。ただし、微小気泡のは発生については近年著しい発展がありますので、気泡を微小化することで、過酸化物生成に対する抑制効果が強化されるということは可能性としてあるものと思われます。

   

今日は推測ばかりで、データの乏しい内容になってしまいました。最後に本題とは関係ありませんが、調べている最中で見つけた「ちょっと面白い話」をご紹介して終わりにしたいと思います。どんな話かというと「おいしい匂い」に関することです。油を加熱すると動物性食品のおいしさを司る香気成分でありメチルケトンやラクトンが生成されますが、この生成メカニズムが解明されていませんでした。日清オイリオは東北大学との共同研究により、油から香気成分が発生するメカニズムを解明したというのです。概要を下図に示します。東北大学の発表資料から引用します。

  

https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv_press0117_01web_yushi.pdf

どのようンして解明したかというと、おいしさの香気を発生する中鎖脂肪酸を加熱する際に生成する酸化物や過酸化物を採集して分画(成分ごとに区分け)し、それらをひとつずつ再加熱してどのようなものが生成するか調べたところ、甘い香りの正体は、従来言われていたようにメチルケトンやラクトンであったというものです。直接商売に結び付かいような発見ですが、こうしたこともキチンと調べていく企業姿勢には共感がもてます。

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