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かんとこうブログ

2024.07.23

暑熱対策は服装の色選択で・・しかし色相より明度が大事

今朝のニュースで服装の色を選択することで、より涼しく過ごすことができると報じていました。国立環境研究所の一ノ瀬俊明氏の「最小スケール気候変動適応策としての被覆色彩選択効果について」という資料が原本のようですが、ウエザーニュースのサイト(下記URL)から資料を引用させていただきご紹介します。

https://weathernews.jp/s/topics/202108/050255/#google_vignette

ニュースで紹介されていた実験は次のようなものです。色の異なるポロシャツに5分間日光をあててサーモカメラで撮影し、色によってどの程度表面温度に差があるのかを調べたというもので、結果を下の写真に示します。

塗料を生業(なりわい)としている人にはほぼ常識の範囲内の写真ですが、ニュースでは「黒(右から4番目)もさることながら緑(左から4番目)が暑くなる」というような話になっていました。

高日射反射率塗料(俗にいう遮熱塗料)で言えば、こうした表面温度は太陽光に対する日射反射率で決まるとされていますが、それは可視光部分だけでなく紫外線も赤外線も含んだ太陽光すべてに対しての反射率の話です。しかし太陽光中の可視光部分のエネルギー比率は47%であり、全エネルギーの約半分を占めるため、可視光の反射率(すなわちどんな色か)も重要な要素であることは間違いありません。

白はすべての可視光波長の光を反射し、黒はすべての可視光波長の光を吸収します。一方赤は赤以外可視光波長の光を吸収し、青は青以外の可視光波長の光を吸収するため、それぞれ赤く、青く見えるのです。私たちが見ている色は、物体の表面で吸収されずに反射された光だけを見ているのです。

また色には明るい暗いもありますが、暗い色は明るい色に比べて反射する光の割合がすくなくなっています。明るい色では逆に反射する光が多くなっています。光のエネルギーはその波長によって異なり短い波長ほどエネルギーが高いのですが、波長によるエネルギーの変化よりも光の反射/吸収による差の方が大きく、結局色合いよりも明るさの方が表面温度がどれほど上昇するかにとって支配的となります。つまり色の選択というよりも明るさの選択の方が重要だということなのです。

実際に上の写真を使って調べてみました。印刷した写真と日本塗料工業会が発行している色見本帳の標準色とを比較して、それぞれのポロシャツの色に最も近い色を見つけてそのマンセル番号を書きだし、明度の順に並べてみました。マンセル番号とは色の番地のことで、色の3要素である色相(いろあい)、明度(あかるさ)、彩度(あざやかさ)が数値化されています。結果は下図のようになりました。

右上に各色の近似色のマンセル番号を書いておきました。赤字の部分が、明度を表しており、数字が大きいほど明るく、小さいほど暗い色であることを示しています。左側に明度に従って各色のポロシャツ写真とそのサーモカメラ写真を並べてみました。赤を除きおおよそ明度と表面温度がきれいに並んでいると思います。赤の場合には、色見本帳の標準色で明るい赤がなく、この色合いでは明度4が最高でした。しかたなくそれを近似色としたため実際よりは低い明度位置に並べられたという事情があります。

このように、ポロシャツの色と表面温度の関係は、色合いで表面温度が決めるのではなく、明度で表面温度がきまるというのが正解です。しかし、朝のニュースの短い時間の中で、複雑な話はできませんので、話を判りやすくするために色で表面温度が決まるということにしたのだと思います。でも色合いだけでは表面温度は決まりません。大切なのは明るい色を選ぶということです。

コメント

ご紹介ありがとうございます。最近関連の論文を国際誌に出しましたので出典としてご利用いただけれれば幸いです。ご指摘のポイントにもお応えしております。
Ichinose, T., Y. Pan, Y. Yoshida (2024): Clothing color effect as a target of the smallest scale climate change adaptation.
International Journal of Biometeorology, 68.
最小スケール気候変動適応策としての被服色彩選択効果について
一ノ瀬 俊明・潘 毅・吉田 友紀子
本研究の目的は,晴天静穏条件下の屋外における被服表面温度決定の物理的メカニズムを理解することである.ここでは,同じ素材・デザインで色違いであるポロシャツの表面温度観測を行った.夏の晴天時に,日影の影響がなく換気のよい屋外のオープンスペースにおいてシャツを日射にさらしたところ,濃緑または黒と白との間の最大温度差は,静穏条件下において15℃以上となり,日射量が強いときに最も大きくなった.シャツによる日射エネルギーの透過を無視した場合,シャツによる日射吸収の色による差は最大24%となるが,透過を考慮した場合34%の差となり,これが15℃の表面温度差をもたらしていることが明らかとなった.色の明度を比較することにより,可視領域と近赤外領域(NIR)の両方の反射率によって,赤と緑における表面温度の相違を説明できることが明らかとなった.また,NIR の反射率も表面温度の重要な決定要因であることが明らかとなった.マスクを使用した追加の実験では,風速約3m/sにおいて白と黒の温度差がほぼなくなることが明らかとなった.よって着衣の色彩選択は,小スケールの気候変動適応策の目標となりうる.

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