かんとこうブログ
2025.02.14
超黒の生物・・アリバチの話
久しぶりに色のお話しです。先日のナショナルジオグラフィック日本版(下記URL)に体の一部に大変黒い体表面を有するアリバチのことが紹介されていました。本ブログではこれまでかなりの数の超黒物質をご紹介してきましたので、これをご紹介しないわけにはいきません。
この生物、ナショナルジオグラフィック日本版では以下のように紹介されています。引用してご紹介します。
「ブラジルの熱帯サバンナに生息するアリバチ(Traumatomutilla bifurca)のメスは、体の色は黒と白で、翅を持たず、ミニチュアパンダのように見えなくもない。しかし、いくらもふもふしているからといって、この小さなケモノに鼻をこすりつけてすりすりしてはいけない。強力な毒針を持つこのハチは、地元では“ウシ殺し”と呼ばれている。」
そしてその体表面の黒については、「最新の研究で、このアリバチの体の黒い色は見かけ以上に複雑であることが明らかになった。光がアリバチに当たると、体を覆う剛毛によって散乱し、真っ黒い毛に吸収される。その結果、反射する光はわずか1%に満たない。この研究は、2024年12月2日付けで科学誌「Beilstein Journal of Nanotechnology」に発表された。」
どうでしょうか?どこかで聞いたようなメカニズムであると思われませんか?興味津々で読み進めていきましたが、メカニズムに関する詳しい話は出てきませんでしたので、やむなく原典である「Beilstein Journal of Nanotechnology」にあたることにしました。最近すっかり英語を読むのが面倒になりましたので、以下の記述についてはおおかたGoogle翻訳のお世話になっています。
まずどんな生物なのか写真をみていただくことにします。このアリバチのメスは、羽を持ちません。一見してアリに似ているため、アリバチと呼ばれているようです。体の黒い部分をみると細かい毛に覆われているように見えます。

この黒い部分の光に対する吸収曲線は以下のようになっており、ゴクラクチョウ(極楽鳥:青線)やクジャクグモ(緑線)には敵わないながら可視光線(400~700nm)の範囲ではほとんど光を反射しないことがわかります。

とここまで淡々とアリバチの黒い部分がどのくらい黒いのかというお話でした。ここからは、ではなぜそんなに黒いのかというお話です。この原典には電子顕微鏡写真がたくさん示されており、それを全部お見せした方がわかりやすいとは思いますが、今回は著作権に敬意を表し、一部のみご紹介します。

左から、表皮表面の概観、剛毛の拡大図、表皮に存在する縞状構造の拡大図です。表皮は夥しい剛毛に覆われており、それぞれの剛毛は内部が中空でありかつ剛毛表面には微細な縞状構造(彫刻状構造)が存在しています。剛毛の下には縞状構造が何層にも重なっており、キチン質の柱により連結され、さらに内部の底層に固定されています。
剛毛と縞状構造は、光に対し複数の散乱と経路長の増加を生じさせ光吸収を増大させます。さらに、表皮内部に入り込んだ光は表面と底層の間で反復散乱と吸収により効率的に吸収されるのではないかと説明されています。(下図)

このメカニズムを簡略化すれば、表皮の剛毛が光を捉え表皮内部に誘導し、誘導された光を表皮内部の縞状構造で反復吸収して光を閉じ込めてしまうということでしょうか?この説明を書いていて、思い出したことがあります。それは以前にご紹介した黒い物質のひとつであるビロード(ベルベット)です。
これは以前当ブログで掲載したビロードの表面構造です(下記URL)。垂直上方に伸びた繊維が底面のマトリックスに連結されています。いわゆる「針千本」効果とそれを支えている基部の連携プレーで光を閉じ込めるというコンセプトが似ているのではないかと思いました。

無理やりベルベットとこじつけていると感じた方もおられると思いますが、種を明かすと実は、このアリバチの別名のひとつが「ベルベット・アリ」だそうです。もちろん、ベルベットの黒に似ているから名づけられているのでしょう。
また、このアリバチがなぜこんな黒い体表面を持つに至ったかということですが、羽を持たない蜂であるアリバチのメスが、捕食されるのを防ぐ手段として、非常に黒い部分を含む体表面の模様と動作で相手を幻惑するためではないかと書いてありました。これが正しいとすれば、この超黒色は生存に関わる重要な盾ということになります。
今回再掲したベルベットの写真は、元関西ペイントの中畑顕雅氏より提供いただいたものです。改めて感謝の意を表します。