かんとこうブログ
2025.02.27
準不燃材料 スギCLTにおける塗料の貢献について
塗料関係各紙で竹中工務店、カシュー株式会社、長瀬産業、ナガセケミカル株式会社が、内装に使用できる準不燃材料スギCLTを開発し、準不燃材料の大臣認定を取得したことを報じました。竹中工務店からも2025年1月1日付でプレスリリースされています。
このスギCLTですが、CLTとはCross Laminated Timber:繊維方向が直交するように積層接着した木質パネル、のことですが、従来の無機系難燃剤を使用した難燃化塗料では実現できなかった透明性と耐久性を実現し、外観を損なうことなく準不燃材料の規格を満たすことのできる優れものだそうです。竹中工務店のプレスリリース(下記URL)からどのような材料なのか調べてみました。
https://www.takenaka.co.jp/news/2025/01/01/
より具体的には、この新素材の断面構造が出ていましたのでそれを見ると素材の構成が理解できました。
塗装は3層からなっており、最下層が基質であるCLTと中間層の水ガラス系塗料とのバインダ―コート的な役目を担っており、中間層の水ガラス系塗料による木材のアルカリ焼けと中間層の木材への染み込みを防止します。難燃性の付与を担うのは中間層で、熱が加わると発泡し、木材へ熱が伝わるのを防止すると説明されています。そして最表層は中間層の保護を担う上塗り塗料となっています。この3層により透明性を保持したまま、難燃性と耐久性を備えることができるようになりました。
熱による発泡と言えばすぐに耐火塗料を思いだしますが、ここで採用されている発泡メカニズムは全く異なるようです。そもそも水ガラスとはM2O/SiO4(Mはアルカリ金属)で表されるアルカリシリケートであり、どこをどう見ても熱で発泡する成分は見当たりません。いろいろ調べているとこの件とは全く関係のない特許、特開-284325の中に「水ガラスを加熱すると水が沸騰するとともに水ガラスは泡立ち発泡体となる。」という一文を見つけました。水ガラスにもともと含まれる水が通常の乾燥では蒸発しきれず残ったままになっているとすれば、なるほど火災時には沸騰して発泡することは充分あり得ると納得しました。
因みに水ガラスは、水-Na2O-SiO4の三角座標で表すと下図のような位置にあり、もともと水を多量に含んでいます。

となるとあとは詳しい組成情報が知りたくなりました。幸いに特許取得済とありますので簡単に調べることができます。該当すると思われる特許が3件見つかりました。この特許それぞれに開発の経緯が想像できる内容になっています。出願順に中身をご紹介します。
1件目の特許は難燃性を付与する水ガラス系塗料の基本特許です。水ガラスの成分である珪酸ナトリウム、珪酸リチウム、非晶質シリカと塗料粘度に関して規定しています。ここで粘度は全体の濃度と密接に関係しており、これにより組成の概要が規定されると想像します。

2件目の特許は最下層のバインダ―コート的なものに関する特許のようです。

請求項1を見てうなりました。バーサチック酸ビニルエステル共重合体が使われていました。ビニルと言えばかつては塩ビ系ポリマーが塗料用に使用されていましが、嵩高い側鎖を持つバーサチック酸ビニルエステル系であれば内部可塑化されておりバインダーコート適性が十分にあるのではと納得しました。この特許の請求項の3~5は最初の特許の内容と同じです。
最後の特許は最表層のトップコートに関する特許です。アクリルポリオールとポリイソシアネートからなるウレタン塗料、アクリルウレタン塗料で水ガラス系塗料を保護するという内容でした。

請求項1でアクリルウレタン塗料を最表層に塗装するという以外にこれまでの2つの特許と異なるところはありません。この特許で興味深かったのは水道水を使用した耐水試験の結果が表で付されていたことです。
トップコートの種類としてアクリルウレタン樹脂、シラノール基含有自己架橋型ウレタン樹脂、バーサチック酸ビニルエステル共重合体とアクリル系モノマー系共重合体、自己架橋型アクリル塗料、シリコーン樹脂塗料と多くの種類について、膜厚条件を変動させて試験した結果の一覧表が記載されていました。これらの中で最も結果の良かったアクリルウレタンの厚膜条件を採用することになったようです。
以上が特許から判ったことです。この特許の中では言及されていませんが、技術的に塗装システムを構築する上で重要な点があります。それは屈折率を一定の範囲に収めるということです。でなければ無色透明な塗膜が得られず、材料としての価値を大きく損なってしまいます。この塗装系の1層目から3層目に至る材料には、そうした屈折率の調整がなされているはずです。
ところでこれらの特許は、言い方が変ですがとても好感の持てる特許でした。変に隠し立てするようでもなく、整然と請求項を主張していました。竹中工務店のプレスリリースには、「このたび開発した準不燃材料を積極的に展開し建物の内装木質化を推進することで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。」とありましたが、その通りに実現されればよいなと期待しています。