かんとこうブログ
2025.03.06
米の値段が下がらない理由について
米の値段が高騰しています。これまで物価の優等生であった米が一転して急騰したわけで、驚きとともに何か特別な理由があるに違いないと思うのは当然です。受給ギャップを解消するために備蓄米が放出されることになりましたが、果たして効果があるのかどうか?いろいろと調べてみると疑問に思いました。今日は米について調べたことをご紹介します。
昨年も一度米についてご紹介していますが、まずは受給ギャップについて確認したいと思います。下図は以下の資料から引用しています。
この図は昨年もご紹介している図ですが、米の生産量と需要量に関する農水省の資料ですが、見事なまでに赤線の需要と青線の生産とが一致しています。これはひとえに政府による生産調整の賜物です。最新値が令和5年度になっていて生産が791万トン、需要が804万トンと13万トン需要過剰でした。これでは肝心の令和6年の受給状況がわかりませんが、同じ資料の別のページに詳しく載っていました。
左上に令和5年/6年の受給実績が載っていますが、民間の在庫も合わせてみれば、需要の702万トンをはるかに上回る量が確保でできていたことがわかります。確かに端境期を過ぎると一時期の騒ぎがウソのように米が店頭から消える事態はなくなりました。左下の表によれば、令和6/7年の米の生産量は需要量にほぼ見合っており、民間在庫と合わせれば不足する事態はなさそうです。しかし、それにもかかわらず上右図が示すように緑色の線で示す価格は今年に入ってもうなぎのぼりに上がり続けています。これはどうしたことでしょうか?価格と供給量の関係をもう少し細かくみてみましょう。
上図は、農水省のマンスリーレポートに掲載されている「米穀販売業者における販売数量・販売価格の動向」から作図したもので、前年同月比の推移を用いて数量と金額の動向を表しています。販売先を小売業者向けと中外食産業向けに分けていますが、いずれも前年同月をわずかに上回る程度で推移しています。一時期指摘されていたインバウンド需要による米需要の増加が価格高騰の主要因ではなさそうです。
一方、価格の方は昨年6月あたりから急激に上昇を始め今年の1月現在でも(そして今も)上昇を続けています。米の供給が逼迫したのは一時的なものであり、こうした継続的な価格上昇を説明できません。
農水省の資料をあれこれみているうちになるほどと思い当たる資料に行き当たりました。一つ目は米の価格の長期データです。
何と米の価格は平成4年(バブル期最後の年)以降ずっと下がり続けて、おおよそ半額にまでなっていたのです。令和4年・5年こそわずかに上昇に転じましたが、それまでは大勢としては継続的下降を続けていました。そしてこの値下がり続けた価格にコロナ禍後半からのインフレが到来しました。下図も農水省の資料からの引用です。米の生産において近年のコスト上昇がいかに大きかったかを示しています。
まず図の右上では令和6年度米は令和5年度分の価格から資材価格の上昇に相当する分として30~40%引き上げられと説明されています。そしてさらにそれでも不十分な場合には追加で2回目の引き上げが行われ、20%上乗せされたそうです。この資材価格の上昇については光熱動力費で30%、肥料で37.1%の上昇と説明されています。これだけで40%から50%値上がりしたことになります。さらに図の下の部分では、米の集荷・流通費用として10%のコストアップがあったとしています。これら総合すると全体では57%アップの価格になるとのことです。ただしこれらは、それぞれの費目の価格に占める割合が示されておらず、きちんとした原価計算ではないことは指摘しておきたいと思います。
ただし重要なことは、今回の米の価格上昇が需給バランスからきているものではなく、コストアップが主要因であり、長年需要減少のため価格低下を余儀なくされていた生産者から見ると、ささやかな是正をさせてもらったと言えるかもしれません。一方で備蓄米は新米と比較すれば、確かにコストの安いため低い価格設定が可能でしょうが、数量が20万トンと年間需要の3%程度に過ぎず全体に行き渡るまでには至りません。こうした安価米が出たからと言ってすでにコスト高になったコメの値段が下がるとも思えません。需給関係だけで価格が決まっている場合ならともかく、もう米の価格が多少は下がることはあっても、元に戻ることはないと考えるべきかと思います。
これが調べた結果の結論です。どうも政府ば今回のインフレがコストアップインフレだと理解していないように感じます。ディマンドプルインフレであれば、3%の備蓄米放出でも一定の効果は期待できるのでしょうが。これだけ長い間値段が上がらないと未来永劫このままと思いがちですが、世の中でコストのかからない商品などはないということです。