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かんとこうブログ

2025.06.26

ヘリウムを用いないMRIについて

最近,、富士フイルムのテレビCMで「ヘリウムを使用しないMRI」というものが紹介されています。MRIとは医療の現場で使用されている画像診断装置ですが、その原理は、化学関係の研究室で使用されているNMRと同じだと聞いていましたので、このCMの内容は興味がありました。今日はこの「ヘリウムを使用しないMRI」について調べたことをご紹介します。塗料とはほぼ関係のない内容ですので、最初にお断りしておきます。

まず富士フィルムのサイトから、ヘリウムを用いないMRI装置に関する説明を引用してご紹介します。

https://brand.fujifilm.com/sekai-hitotsuzutsu/contents/zeroheliummri/

あとで詳しく説明しますが、このMRIという装置は、とにかく強力な磁場をかけてその応答により体内の病巣を可視化する装置であり、強力な磁場をかけるのに通常超伝導電磁石が使用されます。この電磁石はマイナス269℃という超低温で初めて画像診断が可能となるのですが、この超低温を保持するための冷却装置として液体ヘリウムっが使用されます。そのヘリウムの量はMRI1台あたり1000~1500L程度と多量のヘリウムが必要であり、非常に気化しやすいため常に補充する必要がありました。このヘリウムはMRIだけでなく、極低温を必要とする様々な分野で使用されており、MRIでの使用は全体の20%に過ぎません。

一方で、液体ヘリウムは貴重な資源であり、天然ガスの副産物として生産されるものしか利用できません。コロナ禍以降需要は増加するのに対し、政情不安も影響して供給は常にタイトとなっていました。

それではどのようにして液体ヘリウムを使用しないMRIを成し遂げたのか?ということなのですが、これがよくわかりません。下に示したのは、左が先ほどの続きで富士フィルムのサイトの記述です。右は日経新聞のサイトで紹介されていた富士フィルムのプレスリリース資料(下記URL)です。

https://release.nikkei.co.jp/attach/670190/02_202404081130.pdf

    

いろいろと書いてありますが、要は左の囲みでは「磁石の冷却方法など様々な改良を重ねて実現した」、右の囲みでは「冷凍機による極低温を効率良く伝搬して磁石を冷やす独自の磁石構造の採用」ということしかわかりません。後者の方が少し具体的ではありますが、詳しいことはわかりません。

そこでいいつものように特許を調べてみました。「富士フィルム MRI」で検索すると139件該当がありました。このうち特許として成立し、かつ年金を払っているものをすべて見ましたが、ほぼすべて画像イメーに関するものか、あるいはそうした画像の診断に関するものでした。富士フィルムの会社の沿革から考えると当然ではあります。「富士フィルム ヘリウム」で検索すると該当なしでした。

これらの特許を調べているとき、出願人が日立製作所となっているものがいくつかありましたので、ひょっとすると日立製作所と提携、協業している可能性もあるのかと思い、「日立製作所 MRI」」または「日立製作所 ヘリウム」」で調べてみると、前者は473件、後者は1199件、「日立製作所 MRI ヘリウム」で調べると18件ヒットしました。なるほど冷却にヘリウムを使用した機器は非常にたくさん使用されていることがわかりましたが、あまりに数が多いのですべてを調べることあきらめ最後の「日立製作所 MRI ヘリウム」の18件だけ調べてみました。このうち1件だけそれらしいものがありましたが、これかどうかはわかりません。

その特許は特開平06-219736でこの特許の要約としては

 高い不可逆磁場を有する超電導物質をその結晶のc軸が揃っているような状態であるように超電導体を構成する。これを具体的に実現する方法として、高い不可逆磁場を有する超電導物質を結晶が板状に成長しやすい性質を持つBi2Sr2CaCu2O8とともに熱処理する。 液体ヘリウムによる冷却は勿論、液体窒素による冷却によって運転され、高磁界中においても高い超電導臨界電流密度が得られる。」

大変難しい記述ですが、簡略化すると「超伝導体をうまく作ってやると液体窒素でも測定できるMRIができる」という内容です。なぜ液体ヘリウムを使用するかというと超伝導現象を保持するためです。ひところ話題になった常温超伝導はともかく、液体窒素の温度(マイナス196℃)でも超伝導するような物質があれば、ヘリウムを使わなくでもよくなります。この特許が実際に使用されているかどうかは別にして、可能性のひとつはこういうことではないかと思われました。ただ、先ほどの「冷凍機による極低温を効率良く伝搬して磁石を冷やす独自の磁石構造の採用」という説明にはあてはまりません。

以上が調べた結果です。消化不良感は否めませんので、実勢にMRIがどのようにして病巣をイメージ化できるのか、すでにNMRを十分に理解している人もしていない人も以下をお読みください。東大の先生が解説しているもので分かりやすく説明されています。

https://www.todaishimbun.org/helium_4_20221222/

  

解説をまとめると ①MRIは人体の組織に強い磁場をかける ②NMRでは体内の組織に存在している水の水素原子の原子核からの信号を検知する ③水素原子には磁石の性質があり、磁場をかけられると一定の方向を向く ④一定の方向を向いた状態の水素に電波をあてると向きを変える(倒す)ことができる ⑤この倒された向きは放置すると元に戻るがこの戻るために必要な時間を緩和時間と呼ぶ ⑥がん組織にしか浸透しない造影剤を送りこむと、造影剤の浸透によってこの緩和時間が短縮される ⑦一方で正常組織では造影剤が浸透しないので緩和時間が変化しない。⑧こうした緩和時間の差を利用してがん組織を検出できる。

因みに化学におけるNMRの分子構造解析(最も一般的なプロトンNMR:水素原子を調べるNMR)では、緩和時に放出される電波の波長分布から、それぞれの水素原子が結合している原子の種類や、メチル基の水素なのかメチレン基水素なのか、その割合などを検出することができ、分子構造の解析が行われています。

余談ですが、東大ではMRIに使用するヘリウムの供給不安から、徹底的に漏れやロスをなくし、10年間はヘリウムの補充なしで運転できるようになったと書かれていました。

最後はまとまりがつかなくなりましたが、調べたことをご紹介しました。

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